学習はレム睡眠で進む

 
視野の一部で学習する」で紹介したイスラエルのサギは、彼の使った学習課題の成績が一晩寝た次の日に良くなっていることに気が付き、睡眠中に学習が進むのではないかと考えました。

 課題は「視野の一部で学習する」で紹介した課題と同じです。コンピュータのディスプレー画面の前に座った被験者に、図1Aのような画面を見せました。全面に短い横線が沢山描かれていますが、その内連続する3本が斜めになっています。課題は3本の斜め線の並びが縦か横かを答えるものです。図1Aの場合は縦が答えです。右下にあります。視線を画面中央から移動させないように、被験者はこの課題と同時に画面中央に呈示される文字がTかLかをまず答えその後で縦か横かを答えるように指示されます。Aの画面が呈示されている時間は10ミリ秒(100分の1秒)で、その後わずかな時間をおいて図1Bのような画面が呈示されます。このような画面は問題として出されたAの図(テスト刺激)のイメージを隠すのでマスク刺激と呼ばれています。テスト刺激の中の3本の斜め線が中央の注視点(TまたはLが呈示される場所)に対してどこに呈示されるかは、毎回違っているのですが、完全にランダムではなく、何日かに渡る学習期間、右上、右下、左上、左下の4つのうちのどこに出るかが決まっていて毎回同じ範囲に呈示されます。この課題は50試行を1ブロック、16-20ブロックを1セッションとして、1日2セッションおこないました。

 テスト刺激が呈示されてからマスク刺激の呈示されるまでの時間をどこまで短くして正答率が80%以上の成績を保てるか(刺激間隔の閾値)を調べると、セッションを繰り返す毎により短い時間でも正解できるようになっていきます。この刺激間隔の閾値の短縮を睡眠との関係で示したのが図1Cです。縦軸が刺激間隔の閾値。横軸は時間の経過を時間で表示してあります。学習課題のテストは午前7-8時と午後9-10時に2回おこなっています。このグラフのたての線がテストした時刻を示しています。グレーの縦の領域は睡眠時間を示しています。4番目の夜のグレーが濃いグレーになっているのは、この夜はレム睡眠になるたびに目覚ましを鳴らして起こし、レム睡眠が出来ないようにした夜です。5番目の夜はまた正常に戻しています。折れ線が4本描かれていますが、それぞれ、視野の別の領域の学習に相当します。正常な睡眠では学習成績の改善が進みますが、レム睡眠になると起こしたときには学習は改善していません。

図1 A.テスト刺激、斜めの線が3本あり、この場合は縦に3つ並んでいる。B.テスト刺激の後に出るマスク刺激。C.5日分の学習課題の成績。縦軸は正答率80%を維持できるAのテスト刺激からBのマスク刺激までの時間の最低値。短くなるほど成績が上がっている。グレーの領域は睡眠期。暗いグレーはREM睡眠をさせなかった夜。この夜は成績が改善していない。 (Karni,Tanne, Rubenstein, Askenasy, Sagi, Science, 265, 679-682, 1994)

 ところで、ヒトの睡眠は脳波から5つに分けられます。その1つはレム睡眠ですので、レム睡眠以外の睡眠(ノン・レム睡眠)は4つに分けられることになります。この4つは睡眠の深さとも関係しています。段階1はθ(シータ)波と呼ばれる 4-7 ヘルツの低振幅の脳波パターンです。段階2は13ヘルツ前後の波で構成される紡錘型(中央がふくらんだかたち)の脳波(紡錘波、sprindle wave)が出ます。段階3と4は、δ(デルタ)波とよばれる 0.15-3.5 ヘルツの非常にゆっくりした波で振幅は大きくなります。δ波が50%以下が段階3で、50%以上が段階4です。段階3と4を合わせて徐波睡眠(slow wave sleep)と呼びます。この4つの段階は数字が大きくなるほど眠りは深くなります。サギらは、この睡眠の段階を脳波で判定し、レム睡眠のときに起こしてレム睡眠を減らす夜と、徐波睡眠のとき起こして徐波睡眠を減らす夜の学習への影響をテストしました。図2は、レム睡眠除去と徐波睡眠除去がどの程度できたかを示した図です。S1とS2は睡眠の段階1と段階2、SWは徐波睡眠をREMはレム睡眠を示します。100%ではありませんが、レム睡眠除去と徐波睡眠除去にほぼ成功していることが分かります。

図2 被験者毎に脳波から判定した4つの睡眠期間が睡眠時間全体に占める割合を表示している。S1:睡眠段階1(グレー)、S2:睡眠段階2(斜線),SW:徐波睡眠(白)、REM:レム睡眠(黒) (Karni,Tanne, Rubenstein, Askenasy, Sagi, Science, 265, 679-682, 1994)

 図3は、学習成績の改善と睡眠の関係を被験者毎にまとめたものです。正常な睡眠と比較して、レム睡眠をほとんど除去した条件では学習成績がほとんど改善していないことが分かります。徐波睡眠除去の効果はあまりありません。このデータは学習の効果が脳に残るためにレム睡眠が重要な働きをしていることを示すものです。

図3 学習の改善の度合いを刺激間隔の閾値(図1の縦軸)の改善度kを被験者毎に示した図。A.学習途中の改善は、正常睡眠(左側)と徐波睡眠除去(右側)では見られるが、REM睡眠除去(中央)では改善が見られない。B.学習が成立した後は、どの睡眠条件でも変化はない。 (Karni,Tanne, Rubenstein, Askenasy, Sagi, Science, 265, 679-682, 1994)

 

 

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考文献:

1. Avi Karni and Dov Sagi, Where practice makes perfect in texture discrimination: Evidence for primary visual cortex plasticity. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 88, 4996-4970, 1991

2. Avi Karni, David Tanne, Barton S Rubenstein, Jean JM Askenasy, Dov Sagi, Dependence on REM?Sleep of OVernight Improvement of a Perceptual Skill, Science, 265, 679-682, 1994


関連項目:

視野の一部で学習する

レム睡眠って何?

動物も夢をみるか?