記憶の分類


記憶の持続時間による分類

 記憶には、様々なタイプがあります。最も単純な記憶のタイプ分けは記憶時間の長さによるものです。時間的な持続の違いから、短期記憶(short-term memory)と長期記憶(long-term memory)に分けます。短期記憶の例としてよくあげられるのは電話をかけるまでの数分間、電話番号を憶えているような場面です。電話がつながってしまえばその電話番号を憶えている必要はありません。短期記憶には留めておくことのできる情報の容量に限界があるという特徴があります。数字の系列を憶えるテストや、単語を憶えるテストでは、一度見たり聞いたりしただけで憶えることができるのは5-9個(平均7個)までです。また、数十秒以上憶えておく必要がある場合は、繰り返し口に出して言うなどのリハーサルが必要です。干渉に弱いというのも短期記憶の特徴です。電話をかける直前に別の数字を言われたりするとこれからかける番号を忘れてしまうこともあります。

長期記憶の性質による分類

 記憶というとき最も一般的にイメージされるのは長期記憶です。長期記憶は名前のとおり年の単位で長期間憶えている記憶です。長期記憶については扱う記憶の性質の違いからいくつかに分類されています。タルビングTalving(1978)は特定の日時や場所と関連した個人的経験に関する記憶を「エピソード記憶」と呼びました。例えば、「4月の入学式の後、友達と駅前のカフェでコーヒーを飲んだ」といった記憶です。これに対し、特定の日時や場所と無関係な記憶を「意味記憶」と呼んで区別しました。「中枢神経には脳と脊髄がある」などというのも意味記憶です。スクワイヤーSquire(1987)は、さらに「宣言記憶」と「手続き記憶」を区別しました(下の表を参照)。「宣言記憶」は事実やエピソードを憶える記憶です。タルビングの「エピソード記憶」と「意味記憶」は「宣言記憶」に分類されます。「手続き記憶」は、やり方やルールの記憶、体で憶えた記憶です。健忘症の患者さんは普通「宣言記憶」の障害を主な症状としていて、「手続き記憶」は比較的良く保たれています。例えば、箸の使い方を忘れたりはしません。

長期記憶 宣言記憶 エピソード記憶 昨日の夕食のメニューなどの自伝的出来事、水害などの社会的出来事の記憶
意味記憶 家族の名前や誕生日などの個人的な事実、言葉の意味などの社会的に共有する知識の記憶
手続き記憶 自転車の乗り方やダンスの仕方など体で覚えた記憶

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注1: 短期記憶は即時記憶(immediate memory)と呼ぶこともあります。また、短期の記憶の中で感覚刺激の後にごく短時間感覚した内容を保持する機能を短期記憶から分けて感覚記憶として分類する考え方もあります。情報処理の過程で使われる短期記憶は作業記憶(working memory)と呼ばれます。

注2:宣言記憶は陳述記憶と訳されることもあります。英語はdeclarative memoryです。

注3:スクワイヤーのオリジナルの分類では、手続き記憶(procedural memory)のなかに、古典的条件付けやプライミングが分類されています。古典的条件付けとは、例えば食べ物を見て唾液が出るような反射の前に音を聞かせると、音で唾液が出るようになる現象です。生まれつき存在する刺激と反応の組み合わせである反射を引き起こす刺激の手前に条件となる新しい刺激を入れると、新しい刺激で反応をひき起こすようになります。プライミングとは、先行する事柄が後続する事柄に影響を与える現象です。例えば、「くだもの」という言葉の後では、「みかん」、「りんご」などの言葉の読みが、「くるま」、「とうふ」などよりも早くなる現象です。1年以上効果は持続すると言われています。

注4:注3のように、スクワイヤーの手続き記憶には多様な内容が含まれるため、これらを非陳述記憶(non-declarative memory、あるいは非宣言記憶)として陳述記憶(宣言記憶)と対比することがあります。この場合、体で覚えた記憶を手続き記憶として、古典的条件付けや、プライミングと同列に並べます。

注5:記憶を過去の痕跡という意味でとらえると様々な内容が含まれています。しかし、日常的に「記憶」として扱われているのは、短期記憶、エピソード記憶、意味記憶、手続き記憶であると言って良いでしょう。