料理は前頭連合野を使う知的な活動のひとつ


 カナダの脳外科医ペンフィールドは、手術中に電気刺激をおこない、ヒトの脳の機能局在について多くの知見をもたらした。彼の姉は、右の前頭葉にできた脳腫瘍のため、1928年11月、右の前頭連合野を取り除く手術を受けた。手術後15カ月を経過した1930年2月のある日、退院し日常生活に復帰した姉はペンフィールドを夕食に招待した。彼女はペンフィールドと彼女の4人の家族のために、夕食をご馳走するのを楽しみにしていた。そのために、1日中かけて準備をしていた。5人分の夕食を用意するなどということは、10年前の彼女ならたやすくできたことである。

 招待された時間にペンフィールドが姉の家を訪問すると、彼女はまだ台所にいた。食べ物は、すべてまだ台所にあり、一つ二つの食べ物は、コンロの上におかれていた。しかし、スープはできておらず、肉はまだ全く手がつけられていなかった。彼女は、長い時間ひとりで努力し続けてことに悩み困惑していた。彼女にとってすべてを完了することが不可能なことは、明らかであった。ペンフィールドが手伝うことによって、夕食の準備は無事終了し、いつものように、夕食の会話を楽しむことができた。

 料理は、ヒトがおこなう極めて知的な作業のひとつである。料理にはいろんな情報処理の過程が詰まっている。献立を考え、必要な物をリストアップし、買い物し、調理する。買い物のときには、お店に行ってから、その時に手に入るものや、そのときの値段によって買う物を変える必要もある。調理も材料によって違った処理が必要で、個々の材料を処理する方法や、処理する時間、火加減、味付けなど考えながら、しかも、そのいくつかの作業を並行して同時進行で処理しなければならない。作った後、できあがった料理をどのように美しく盛りつけするか、どのような順序でどんな温度条件で出すかも考える必要がある。彼女は、このような順序だった行動の組立ができなくなっていたのである。この障害は、行動のプログラミングの障害と考えられ、このような機能を担う脳の領域として前頭連合野が重要な役割を果たしていることをこの症例は示した。

 図1 ペンフィールドのお姉さんの脳。大脳を上から見たところ。上が前。右側の前頭葉が前頭眼窩回(前頭葉の下面)を含め広く切除されている。(Penfield, W. and Evans, J., Brain, 68, 115-133, 1935より改変)

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(このページに関する連絡先:三上章允)