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側頭連合野の話


 後頭葉の前方、腹側の領域。側頭連合野は、側頭葉の中で一次聴覚野を除く領域である。上は聴覚認知、下は視覚認知、形態視覚(「なにが」)を扱う。

1.ヒトの側頭連合野の病床に伴う症状

(1)高次の聴覚情報処理:上側頭回は聴覚性の連合野であり、聴覚野およびその周辺領域の破壊は聴覚失認auditory agnosiaを起こす。左側には後述する聴覚性言語野があり、右側の相当部位の破壊は感覚性失音楽sensory amusiaや言語以外の環境音の認知障害を起こす。

(2)視覚失認visual agnosia:下3分の2(中および下側頭回)は形態視覚・形態認知に関与する。この部位の破壊は、色覚障害color disturbance(色が分からなくなる)、画像失認picture agnosia(絵の中味を理解できない)、相貌失認prosopagnosia(誰の顔かわからなくなる、ときには家族や知人も分からなくなる)などを起こす。この領域の電気刺激は、視覚的イメージを発現する。視覚イメージは映画のように次々と連続的に起こり、時間は前方に流れる。側頭葉を焦点とするてんかん発作でも類似の視覚イメージの発現が起こる。

(3)前行性健忘anterograde amnesia:海馬に到る側頭葉内側面の破壊は側頭葉性健忘症候群(temporal amnesic syndrome)を起こす。破壊後の記憶が困難な前行性健忘が主症状であり、高度の場合は数分前の出来事さえ思い出せない。

(4)言語障害:左側の上側頭回の後半部に感覚性言語野(Wernicke野)がある。この部位の破壊で、聞いた言葉の理解ができなくなり、音韻性錯語phonological paraphasiaや、意味性錯語semantic paraphasiaを起こす。一方、中・下側頭葉の障害は、物の用途や関連する動作を説明できるのに、呼称だけができなくなる視覚性失語optic aphasiaを起こす。日本人では後頭葉に隣接した左側頭葉下部の破壊が、漢字の失読失書(読み書きの障害)を起こす。

2.サルの側頭連合野の機能

(1)高次の聴覚情報処理:上部側頭連合野の破壊は、子音の弁別課題の再学習を障害する。音源の方向や、サルの発する特定の音声に選択性を示す細胞活動が記録される。

(2)形態視覚:下部側頭連合野は、形や模様や色のような細かな視覚特性を扱う。破壊すると図形の識別を障害する。情報処理を撹乱する目的で電気刺激すると、識別期の電気刺激で成績低下を起こす。この領域の細胞は画像に選択性を示すが、その活動は、画像の大きさ、周波数成分、コントラストなど物理特性ではなく、「何に見えるか」に依存する。色選択性の細胞は、ヒトの色視覚のカラー・カテゴリーに類似した特性を持つ。同じ視覚刺激でも識別課題の識別期に大きな応答を示す。

(3)記憶:側頭葉腹側部の破壊は、記憶課題の障害を起こす。側頭葉腹側部と上側頭溝(上部と下部の側頭連合野の間にある脳溝)では、 複雑な図形の短期記憶や長期記憶に依存した細胞活動が記録される。

図1 サル(a)とヒト(b)の大脳皮質連合野。黄色部分が前頭連合野、ピンク色が頭頂連合野、緑色が側頭連合野、水色は後頭連合野、後頭連合野は視覚前野とも呼ばれる。(医学書院「標準生理学」より、オリジナルは、Brodmann, J. Psychol. Neurol. 6, 275-400, 2906, Brodmann, Vergleichende Lokalisationslehre der Grosshirnrinde in ihren Primazipien dargestellt auf Grund des Zellenbnaues, 1909)


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(このページに関する連絡先:三上章允