他者の運動を理解するミラーニューロン

 サルの前頭葉にF5と呼ばれる領域があります。図1の領域です。腹側の運動前野の一部で、前の部分に当たります。イタリア、パルマ大学のリゾラッティらは、この領域から奇妙なニューロン活動を記録しました。このニューロンは、サルが運動するときに活動するだけでなく、サルがヒトが行う同じ運動を見ているときにも活動しました。図2ー3に彼らが記録したニューロン活動の一例を示します。これらの図にあるニューロンはサルが指で餌を摘むときに活動しています。図1の右側、ヒトがトレーを持ってサルの手がトレー中央にのびている絵の下がそのときのニューロン活動です。このニューロンはヒトが指で餌を摘むときにも活動しました。図1の中央付近、ヒトの左手がトレーを持ち右手で餌を摘んでる絵の下がそのときの活動です。

図1 サルのF5領域、運動前野(黄緑色の部分)の一部で腹側前方に位置する。Cは中心溝、Pは主溝、ASは弓状溝の上枝、AIは弓状溝の下枝。(Rizzolatti et al.,1996を改変)
2 F5から記録されたミラーニューロンの例。一番上はヒトとサルの手の動作の絵。それぞれの絵の下がそのときのニューロン活動。中央の絵の下がヒトの動作をサルが見ているときの活動。右の絵の下がサルが自分で餌を摘むときの活動。ニューロン活動の図の上はニューロンの活動電位を点で表してあり、10回同じ動作を繰り返したときの活動である。下の図は10回繰り返したときの活動を加算平均したヒストグラム。(Rizzolatti et al.,1996を改変)


 図3はの中央付近は図2と同じようにヒトの左手がトレーを持っているのですが、右手はペンチを持っていて、そのペンチで餌を摘んでいます。この条件ではこのニューロンは活動しません。このテストをしている間もサルが自分で餌を摘むときは活動しています。図3の右側はそのときの様子を図示したもので、その下はそのときのニューロン活動です。更に図4では暗闇でサルが餌をつまんでいます。このときにもこのニューロンは活動しています。これらのデータから分かることは、このニューロンが餌を摘むときの視覚像がなくても自分が餌を摘む運動をするときには活動すること。別な言い方をすれば運動情報を扱っているニューロンであるということです。一方、図2と図3から言えることは、ヒトが餌を指で摘む動作をしているのを視覚的に見ているときに活動しています。しかし、ヒトの動作を見ているときの活動は、視覚像そのものに活動しているのではないということです。それは図4で視覚像なしに活動したことから得られる推論です。ではヒトの動作を見たときに何故活動したかということですが、ヒトが行った動作が自分が行った動作と同じであることを理解していたと解釈できます。彼らはこのような活動を示すニューロンにミラーニューロンという名前をつけました。


図3 このニューロンはヒトが道具で餌を摘むときには活動しなかった。(Rizzolatti et al.,1996を改変)
図4 このニューロンは暗闇でサルが餌を摘むときにも活動した。(Rizzolatti et al.,1996を改変)


 ミラーニューロンが記録されたサルのF5は、ヒトの運動性言語野(ブローカ野)に相当する位置にあることから、ヒトの言語機能との関係がいろいろ議論されています。可能な解釈のひとつは、ミラーニューロンは、相手の脳が行っている運動制御の内的な状態を推定し、自分の運動の表象を使ってリハーサルする役割を持っているというものです。これは模倣にもつながる機能です。模倣は乳幼児が言葉を覚えるときの初歩であることから、ミラーニューロンは非言語コミュニケーションの基盤にもなると見られています。しかし、これらの考察はあくまでもサルのデータからの推論の結果であり、ヒトの言語機能で同様のニューロン活動が機能しているという証拠は今のところありません。

 ミラーニューロンの特徴を持つニューロン活動は運動前野のF5領域の他、頭頂連合野の7b野の一部であるPF野や側頭連合野の上側頭溝領域前方(STSa)でも記録されています。これらの領域が構成するネットワークが、この特徴ある活動をつくりだしていると考えられています。さらに、模倣や自己と他者の区別などの課題遂行中のヒトの脳機能イメージングの研究によって、サルと同様の回路が働いていることを示すデータが発表されています。


文献:

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Riggolatti, G. and Arbib, M. A. Language within our grasp. Trends, in Neuroscience 21, 188-194, 1998.

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Rizzolatti, G., and Craighero, L. The mirror-neuron System. Ann. Rev. Neurosci. 27, 169-192, 2004.


関連項目:

運動野はいくつある

ブローカの言語野



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