運動野やいくつある


[一次運動野]  大脳皮質で運動のコントロールに関与する領域を運動皮質という。運動皮質の中で運動出力に一番近い領域は一次運動野である。一次運動野は大脳皮質の中央部にある中心溝の前方の領域で、体の各部分を完全にマップにおさめている。このマップは足の領域が左右脳半球の境に近い位置にあり、体幹部、手、顔と次第に中央から離れた位置に分布する。一次運動野を弱い電気刺激をするとマップに対応した部位の運動を引き起こす。一次運動野の神経細胞は運動に先行して活動し、運動で発揮される力と細胞の活動の大きさとに相関がある。運動を指示する手掛かり刺激にも反応するが、このとき、手掛かり刺激のモダリティー(視覚か聴覚かなど)に関係なく活動する。また、運動の準備状態で活動する。こららのデータから、一次運動野は運動するときの筋の組み合わせパターンに対応した出力信号を出し、それぞれの筋が発揮する力をコントロールしていると考えられている。

 一次運動野は、視覚でいえば、第一次視覚野に相当する。では、運動システムにも第二次視覚野、第三次視覚野に相当するような、第二、第三の運動マップが存在し、運動のコントロールをおこなう大脳皮質の領域がさらに存在しているのだろうか。答えはイエスである。運動のコントロールと深いかかわりを持つ領域は、さらに運動野の前方および内側に広がっている。運動前野、補足運動野、前補足運動野、帯状回運動野と呼ばれる領域である。一次運動野以外の運動皮質は運動連合野と呼ばれることもある。この2つの領域は、最近さらにそれぞれ機能の異なる領域へと細分するのが適当と思われるデータが集まりつつあが、ここではそれ以上の分類はおこなわないことにする。

[運動前野]  ヒトで運動前野が障害されると、手足の麻痺はおこらないが、熟練した運動ができなくなる。文字を書くときにも、一画一画を努力して書かなければならず、筆跡も変わってしまう。運動を始めようとするときの筋肉の活動開始が遅れ、運動を終わろうとするときの筋肉の活動停止も遅れる。サルの運動前野を取り除いた場合も熟練運動ができなくなる。例えば、穴のあいている透明なアクリルの板の向こう側に餌を置き、餌の位置と穴の位置をずらしておくと、餌が取れなくなる。この場合、指や手や腕がうまく動かないかというと、そうではない。見えている餌に向かってまっすぐに手を伸ばしてしまい、穴を通して手を挿入し餌を取ることができなくなるのである。サルの運動前野からニューロンの活動を記録すると、手を伸ばす運動や、手を引っ込める運動など、限局した部位の特定の運動の前から活動を開始するニューロンがあるほか、光の手がかり刺激に反応するニューロン活動や、運動の構え(用意)の時期に活動するニューロンがある。特に、後の2種類のニューロンは、運動野や補足運動野に比較して運動前野に多い。運動前野は、頭頂連合野の後方(7野)から視覚・体性感覚の情報を、側頭連合野から視覚・聴覚の情報を受け取っている。従って、運動前野の働きは、これらの感覚情報に誘導されつつ運動をおこなうことにあるらしい。

[補足運動野]  ヒトで補足運動野が障害されると、自らすすんで手足を動かしたり、言葉をしゃべったりしなくなる。この場合、意識状態や知的水準は正常で、患者は、自らも、手足が意のままに動かないことを自覚している。ときには、自らの意志とは無関係な動作をしてしまうこともあり、かえって意図した動作が妨げられてしまう。しかし、手を動かせと強く繰り返し命令すると、正常なヒトと同じように手を動かすことができる。サルの補足運動野を破壊すると、複数の小さな穴の中にある餌をほじくり出すような動作をおこなわせたとき、取り出す穴の順序がでたらめになり、ひとつの穴が終わったら、隣の穴へというように順序だった餌の取り方をしなくなる。また、正常なサルは、透明なアクリルの板の穴の途中に止まっている餌を右手と左手を使って押し出すことができるが、補足運動野が破壊されているt、両手をうまく協調して使うことができない。サルの補足運動野からニューロン活動を記録すると、運動の直前から始まる活動の多くは、右半身の運動でも、左半身の運動でも反応し、両側性である。光の手がかり刺激や運動の構えに反応するニューロン活動も補足運動野にはあるが、運動前野に比べて比率は少ない。虫明らは、菱形に並んだ4つのスイッチを決められて順序で押す学習課題をサルに教え、運動前野と補足運動野からニューロン活動を記録した。運動前野のニューロンは、スイッチの後ろの発光ダイオードの点灯に誘導されてスイッチを押すときに活動し、補足運動野のニューロンは、押す順序をあらかじめ教えておいて、記憶に基づいて順序どおり押すときに働いていた。

図1 サルの運動前野と補足運動野

[運動前野と補足運動野の比較]  補足運動野は、頭頂連合野の前方(5野)から体性感覚の情報を受け取るとっている。従って、運動前野が、身体から比較的離れた視覚や聴覚などの空間感覚情報の処理をつうじて運動をおこなうことに関連するのに対して、補足運動野は、身体に近い感覚情報(体性感覚)の処理にもとづいて運動をおこなうことに関係する。そのために、左右の手や足を協調させて使う運動にも関係している。また、補足運動野は、記憶と関連の深い、大脳辺縁系とのつながりも強く、記憶にもとづいて順序正しく運動することに関連していた。そこで、運動前野が視覚情報や聴覚情報に誘導されつつおこなう運動に、補足運動野が、脳内にいちど蓄えられたプログラムにもとづく運動に関係するという考え方もある。いずれにしても、運動前野と補足運動野の機能の違いについてはまだ十分データが出そろっておらず、それぞれの領野内の細分を含めて今後の課題である。

[帯状回運動野] 報酬が減少したという情報に基づいて動作を選択する課題を遂行するときの動作の切り替えに際し、帯状皮質運動野の神経細胞は特異的な活動を示す。報酬の価値判断に基づく運動の選択や、内的欲求と価値判断に基づく自発的な行動選択に関与すると考えられる。


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(このページに関する連絡先:三上章允)