味細胞の寿命は短い


4基本味 

 ヒトが日常経験する味の感覚は多様ですが、それらは少数の基本となる味の混合によって説明できると考えられています。Henning(1924)は、4基本味(塩味、酸味、甘味、苦味)を頂点とする味四面体を考案しました。実際にはこの4基本味で説明できない味もあり、最近はこれにうま味を加える見方もあります。

 「うま味」は日本で発見され、1985年”umami”として国際的にも認知されました。日本におけるうま味物質の最初の発見から80年近く経過した後のことでした。うま味物質としては、グルタミン酸ナトリウム(1908年、池田菊苗が昆布から抽出)、イノシン酸ナトリウム(1913年、小玉新太郎が鰹節から抽出)、グアニン酸ナトリウム(1957年、国中明が干し椎茸から抽出)などがあげられます。

 4基本味に対する閾値は、図1のデータが示すように、舌の場所により若干異なります。しかし、「塩味と甘味は舌の先で,酸味は舌の縁,苦味は舌根で感じられる。」というように完全な分業が行われているわけではありません。

図1 4基本味(塩味、酸味、甘味、苦味)に対する閾値を舌の場所と軟口蓋で比較したデータ。軟口蓋の閾値は舌を麻酔後の測定値。(Collings, Perception and Psychophysics 16, 170, 1974より改変)

図2 味蕾の模式図

味蕾(みらい)

 感覚器官は、神経システムの外の情報を神経システムに取り込みます。神経システムは電気を使って情報伝達しますが、神経システムの外の情報は様々な物理変化(光、音、温度、圧、振動など)や化学変化(空気中に浮遊する化学物質や水に溶けた化学物質など)です。従って、神経システムは外の情報を神経システムが扱うことのできる電気信号に変換する必要があります。感覚器官はその役割を担っており、感覚を受け取る装置を受容器と呼んでいます。味覚の受容器は味蕾と呼ばれ、水に溶けた化学物質を検出し、電気信号に変換します。

 味蕾は、図2のように花のつぼみのような形をしています。舌などにある疣状の乳頭の表面にあります。味蕾の大部分は舌にありますが、口蓋、咽頭、喉頭にも分布します。ヒトの舌には約5,000個、口全体で約6,000個の味蕾があります。味蕾の中に味細胞があり、味細胞の底部で味神経線維とシナプスを形成して接合しています。味細胞は基底細胞の成熟によって生まれます。その寿命は約10.5日と比較的短く、味蕾の味細胞は次々と新しい細胞に入れ替わります。

 味を感じるには、食べ物が唾液と混じって水溶液になる必要があります。水溶液になった物質は口の中にある味蕾に到達します。味蕾では、味細胞にある受容体が、味物質と結合し味細胞の細胞膜の内外の電位差を変えます。この電気的な変化が味蕾の底部にある神経線維に伝えられ脳に送られます。味蕾から情報を受け取る味神経線維は、4基本味のうちの2種以上の味質に応答することが多く、その応答の大きさもまちまちです。脳はこうした混合した情報を味蕾から受け取っており、脳は混合した情報から味情報を抽出し、識別、判断する仕組みを持っていると考えられています。 

 4基本味で説明したように、味覚は少数の基本的な味によって説明できそうですが、実際に味覚を担う受容体には多くの種類があり、苦味の受容体だけで100種類以上の遺伝子が見つかっています。それらの受容体が味細胞に分布していて、味物質を検出します。

味盲

 味覚の閾値には、かなり個人差があります。特に、苦味を起こすフェニール・チオ・カルバミド(PTC)の閾値の個人差が大きく、2つのグループに分かれます。閾値の高いグループは味盲と呼ばれており、白人で約30%、日本人で8-15%に達します。PTC味盲者はキニーネの苦味の閾値は正常であり、同じような苦味でもPTCとキニーネが別の受容体によって検出されていることが分かります。この点でも4基本味で説明し尽くせるほど味覚は単純ではありません。

味覚修飾植物

 味蕾の項目で説明したように、味を感じる仕組みは、味細胞の表面にある受容体に味物質が結合することによります。味物質の種類によって異なる受容体が存在し、その受容体を持つ特定の味細胞に電気的変化を引き起こし、この味細胞につながる味神経に情報を伝えます。

 直接味の感覚を引き起こさない化学物質でも、味細胞受容体に作用して味覚を変えることがあります。西アフリカ原産の植物ジンセパルム・ズルシクムミラクルフルーツ)の実に含まれるミラクリンは糖タンパク質と類似の構造を持ち、甘味を受容する受容体と結合します。この状態では味覚を生じず、さらに水素イオンが付加されると甘味を引き起こします。そのため、ミラクリンの実を舐めた後、レモンやグレープフルーツなどの酸っぱいものを食べると甘く感じます。

 一方、インド産の植物ギムネマ・シルベストレの葉に含まれているギムネマ酸や、日本にもあるナツメの葉に含まれているジジフィン、ケンポナシの葉に含まれているホズルチンなどはトリテルペン誘導体と呼ばれており、甘味を受容する受容体と結合し、甘味物質の結合を阻害します。その結果、甘味物質が味蕾に到達しても味細胞表面の甘味受容体と結合できず、甘味を感じなくなります。例えば、砂糖を食べてもざらざらとした砂の触感を感じるだけです。

 ミラクルフルーツやギムネマなどの味覚修飾植物については、これらの栽培法、応用法を研究している島村光治氏のホームページに詳しく書かれており、植物の写真なども見ることができます。

食べ物のおいしさと味

 食べ物のおいしさは単純に味だけでは決まりません。われわれが食べ物を食べたときに感じる「味」の感覚は、味覚のみでなく、香り(嗅覚)、硬さや粘りなどのテクスチャー(舌触り、体性感覚)、温度(体性感覚)との複合感覚と考えられています。また、見た目の色や形(視覚)、咀嚼したときの音(聴覚)も食べものの味の感覚を修飾します。さらに、食べる環境の雰囲気、気温、文化的環境、個人の健康状態などもおいしさに影響します。

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(このページに関する連絡先:三上章允