コラムの話、視覚野の規則的構造


 大脳皮質は大脳の表面に広がる厚さ2ミリ程度の神経細胞の層です。大脳皮質の神経細胞はその中で均一に無秩序に分布するのではなく、規則的に配列しています。その規則性の一つは、表面に平行な層構造です。第一次視覚野のもう一つの規則性は、表面に垂直な構造です。大脳皮質の表面に平行な構造と垂直な構造が形成する三次元的な構造については、視覚情報が最初にたどり着く大脳皮質、第一次視覚野で最も詳しく調べられています。

 視覚情報は目から、途中の中継核である外側膝状体を経て第一次視覚野へやってきます。このとき、右視野の情報は左の脳に、左視野の情報は右の脳に行きます。ヒトやサルは右目と左目の両方を使ってものを見るので、右目も左目も右視野、左視野の両方を見ています。つまり、第一次視覚野は、右目と左目の半視野の情報を受け取ることになります。そのとき、同側の目(右脳なら右目、左脳なら左目)からの情報と反対側の目(右脳なら左目、左脳なら右目)からの情報は、第1次視覚野の第IV層への入力部分で、交互に規則的に分布します。この規則的分布は、片方の目に放射性元素でラベルしたプロリンを注入し、第1次視覚野でその分布パターンを調べる方法で、細かく調べることができます。図1は、第1次視覚野全体で片方の目から入力を受け取る部分を黒く塗りつぶしてあります。ちょうど指紋のような縞模様を構成しており、その縞の幅の平均値は約0.4ミリメートルになります。この規則的な配列は、第一次視覚野が外側膝状体から情報を受け取る大脳皮質の中間層(第IV層)でもっともはっきりと見ることができます。中間層より上あるいは下の層では左右の目からの情報が混じり合いますが、左右のどちらからの入力が優位であるという性質は保たれています。このように大脳皮質の表面に垂直に似かよった性質の情報を扱う細胞が集まっている構造を一般にコラム構造と呼んでいます。コラムという言葉は新聞のコラム記事などで使う「コラム」と同じ言葉です。左目と右目から来る情報の分布のこのような規則的パターンは眼球優位コラムと呼ばれています。

図1 第一次視覚野の眼球優位コラムのパターン:白質(線維層)を取り除き灰白質(細胞層)をガラス板に挟んで平らにした第一次視覚野の標本で、片目から情報を受け取る部分を黒く、反対側から情報を受け取る部分を白く描いてある。第一次視覚野は網膜上の位置に対応したマップを持つが、この図では右側が視野の中心、左側が視野の周辺に対応する。中央の黒の固まりは盲点に対応する部分。(LeVay, Connolly, Houde and Van Essen, J. Neurosci. 5, 486-501, 1985 より)

 第1次視覚野の神経細胞の多くは、線分の傾きに対する選択性を持っています(「傾き検出細胞」参照)。この特定の傾きの線分にのみ反応する神経細胞の分布パターンは、放射性同位元素でラベルしたデオキシグルコースを用いて調べることができます。デオキシグルコースはグルコースの同様エネルギー代謝のために神経細胞に取り込まれますが、簡単に代謝されず神経細胞内にとどまります。特定の傾きの縞模様を約40分間見せた後、脳を取り出してデオキシグルコースの分布パターンを調べれば傾きコラムを見ることができます。似通った傾きを好む神経細胞もまた大脳皮質表面に垂直に集まっており、このような構造を方位選択性コラムと呼んでいます。これら2つのコラム構造については、1981年にノーベル賞を受賞したヒューベルとウィーゼルが最初は丹念に細胞活動を記録しその分布を調べることによって報告し、その後、上に紹介したような方法で全体像を調べる取り組みを行いました。彼らはさらに、眼球優位コラムと傾きコラムの関係を調べ、2つのコラム構造はお互いに直交していると報告しました。彼らは、左右の目に対応する一対の眼球優位コラムと1周期分の方位選択性コラムによって構成されるコラムの区画をハイパーコラムと呼び、第一次視覚野における視覚情報分析の最小単位と考えました。

 その後さらに、ミトコンドリアの中に多いチトクロームオキシダーゼを染め出す方法で、第1次視覚野に規則的な斑点模様(ブロブ)が見つかりました。このブロブは第一次視覚野の浅い層(第II層、第III層)で最も鮮明で、深い層(第V層、第VI層)でも見られました。ブロブから記録される神経細胞は線分の傾きに対する選択性を持たず、色や明るさに選択性を示しました。ブロブも大脳皮質の表面に垂直な構造を持ち、ブロブを含むこれら3種類のコラムの位置関係は、ヒューベルらによって図2のように模式化されました。

図2 ヒューベルが描いた第1次視覚野のコラム構造の模式図:R、Lはそれぞれ右目、左目から情報を受け取る領域(眼球優位コラム)。これと直交して方位選択性コラムが配列する。丸い筒状に描かれているのはブロブ。右横の数値は大脳皮質の層の番号。(Livingstone and Hubel, J. Neurosci. 4, 309-356, 1984 より)

 このハイパーコラムの模式図については、その後発表された光記録(Optical Recording)を用いた実験結果によって、多少の修正が必要となりました。ObermayerとBlasdelは、電圧レベルの微妙な変化で色の変わる色素を第一次視覚野の表面に塗布し、脳表面から見た活動部位の分布を記録しました。図3は、その結果描かれた、彼らの模式図です。方位選択性コラムは従来のモデルのように単純に平行に走っておらず、あらゆる傾きのコラムが風車のように一点に集中したり、連続して変化せずにある傾きのとなりに90度近く違った傾きのコラムが並んだり、馬の鞍のような分布をする場所がありました。一方、左右の眼球優位コラムの境目付近では、従来のモデルのように傾きコラムが平行に走り、連続的に変化していました。この部分では傾きコラムは眼球優位コラムと直交していました。光記録よって明らかになった情報を取り入れた3種類のコラム構造の関係を示す模式図はイスラエルのAmiram Grinvaldのホームページにあります。

図3 光記録の結果に沿って描かれた眼球優位コラムと方位選択性コラムのパターン:図の太い線は眼球優位コラムの境目を示す。細い線は方位選択性コラムの配列を傾き30度毎に描いてある。細い線が平行に描かれているところはヒューベル等のモデル(図1)と合う。方位選択性コラムが平行に配列するのは眼球優位コラムの境目(左目から情報を受け取る領域と右目から情報を受け取る領域の境目)付近である。眼球優位コラムの中心付近(太い線と太い線の間)では細い線は1点に集中するようような配列が見られる。(Obermayer and Blasdel, J. Neurosci. 13, 4114-4129, 1993 より)



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(このページに関する連絡先:三上章允)