原猿の色覚

 現在、地球上には約250種の霊長類がいます。これら現生の霊長類は原猿亜目と真猿亜目に分けられます。原猿亜目のサルは霊長類の中では下等なサルの仲間です。真猿亜目はさらに広鼻下目と狭鼻下目に分けられます。広鼻下目はアメリカ大陸に住む霊長類であり、そのために新世界ザルとも呼ばれています。一方、狭鼻下目はさらにオナガザル上科とヒト上科に分けられます。ニホンザルもヒトもこの仲間です。オナガザル上科のサルはアジア・アフリカに住んでいるので旧世界ザルとも呼ばれています。チンパンジー、ゴリラ、オランウータン、テナガザルなどの類人猿は、ヒト上科に属します。

 旧世界ザル、類人猿、ヒトの色覚はすべてヒトと同じ3種類の視物質を持つ3色型色覚です。一部の例外を除き新世界ザルの色覚はオスは2色型、メスは2色型または3色型です。このデータから新世界ザルと旧世界ザル分かれた約4000年前がヒトの3色型色覚の始まりと見るのが一般的です。原猿の仲間は、すべて、長波長(緑ー赤)領域に対応する遺伝子をX染色体上に1座位しか持ちません。この点では、大部分の新世界ザルと同じです。また、原猿の大部分が長波長領域の遺伝子を種のレベルで1種類し持ちません。従って、短波長(青)領域の視物質遺伝子と合わせて2色型です。この点は、種のレベルで長波長領域の視物質遺伝子を複数持っている新世界ザルと異なります。しかし、原猿類の仲間であるエリマキキツネザルやシファガについては、X染色体に1つだけある視物質遺伝子に複数の種類があります。従って、原猿の仲間であるこの2種については大部分の新世界ザルと同様に、X染色体を2本持っているメスは3色型になる可能性があります。この事実は、3色型の起源が新世界ザルが分かれた頃よりもさらに古いことを示すものかもしれません。

キツネザル科
S
M/L
M/L
D Lemuridae Eulemur キツネザル
437
543
-
D Lemuridae Lemur ワオキツネザル
437
543
-
D Lemuridae Hapalemur ジェントルキツネザル
?
-
558
P Lemuridae Varecia エリマキキツネザル
?
543
558
コビトキツネザル科
D Cheirogaleidae Microcebus ネズミキツネザル
?
-
558
D Cheirogaleidae Cheirogaleus コビトキツネザル
?
543
-
インドリ科
P Indridae Propithecus シファカ
430
543
558
アイアイ科
D Daubentonidae Daubentonia アイアイ
?
543
-
ロリス科
M Galagonidae Galago ガラゴ
-
543
-
M Galagonidae Otolemur オオガラゴ
-
543
-
D Loridae Loris ホンロリス
?
543
-
D Loridae Nycticebus スローロリス
?
543
-
D Loridae Perodicticus ポットー
?
543
-
メガネザル科
D Tarsiidae bancanus ニシメガネザル
?
543
-
Tarsiidae syrichta フィリピンメガネザル
?
-
558

原猿類の持つ視物質遺伝子の吸収波長(単位はnm:ナノメートル)。Pは長波長領域の視物質遺伝子を種のレベルで複数持つことを示します。Dは長波長領域の視物質遺伝子を1種類しか持たず、短波長と合わせて2種類の視物質しか持たないことを示します。一方、Mは短波長の視物質もないため、色を識別する錐体の視物質は1種類しか持ちません。Sは短波長(青)領域、M/Lは長波長(緑-赤)領域。一方、ヒトの持つ3種類の視物質の吸収波長は420, 535, 562nmです。 (AK Surridge et al., Trends in Ecology and Evolution, 18, 198-205, 2003より)

オス 
    
メス
2色型

2色型

2色型

3色型

2色型

視物質遺伝子の多型を持つエリマキキツネザルやシファカの遺伝子型

<参考文献>

AK Surridge, D Osorio, NI Mundy, Trends in Ecology and Evolution, 18, 198-205, 2003

CP Heesy, CF Ross, J Human Evolution, 40, 111-149, 2001,

Y Tan, W-H Li, Nature, 402, 36, 1999


<関連のページ>

色は脳で見る

色覚の進化

旧世界ザルの色覚

新世界ザルの色覚