新世界ザルの色覚

中南米のサル(新世界ザル)

 アジア・アフリカに住んでいる旧世界ザルの祖先は、類人猿の祖先として分かれ、やがて、ヒトへと進化しました。一方、約4000万年ほど前にアメリカ大陸に移動したサルは独自の進化を遂げました。この頃、すでにアメリカ大陸とアフリカは大西洋をはさんで分離しており、アメリカ大陸のサルの祖先がどのように大西洋を越えることができたかという謎は未だ解決していません。一説では、アフリカ大陸に大きな洪水が起こり、倒れて流された大木に乗ったサルがアメリカ大陸にたどり着いたと言われています。

 このようにして、アメリカ大陸で独自の進化を遂げたサルは新世界ザルと呼ばれています。新世界ザルの仲間には、子ネコ程度の大きさしかないマーモセットやタマリンなどマーモセット科のサルと、小型から中型のオマキザル科のサルがいます。いずれも木の上での生活に適応していますが、マーモセット科のサルは足の親指にしか平爪がなく、すべての指に平爪を持つオマキザルや旧世界ザルとは少し違っています。

新世界ザルの色覚

 新世界ザルの色覚の研究では、これまでに12種類の新世界ザルで視物質遺伝子が調べられています。それらの中で、オマキザル科に属し夜行性のヨザルは1種類の錐体視物質しか持っていません。一方、やはり、オマキザル科に属するホエザルはヒトや旧世界ザルのように3種類の視物質を持っています。このヨザルとホエザルを除き、残りの新世界ザルは種としては複数の視物質を持ちながら、個体レベルではオスは全て2色型、メスは2色型または3色型の色覚を持っています。これは、X染色体の上に1種類の視物質遺伝子しかなく、旧世界ザルのように、X染色体の上に赤視物質遺伝子と緑視物質遺伝子が並んでいないことによります。そのため、X染色体を1本しか持たないオスは、1種類の視物質遺伝子しか持たず、短波長(青)の視物質遺伝子と合わせて2種類しか持たないことになります。一方、X染色体を2本持つメスは、2本のX染色体上の視物質遺伝子が同じときは青と合わせて2色型に、2本のX染色体上の視物質遺伝子が違うときは青と合わせて3色型になります。このような色覚パターンがなぜ新世界ザルで長いこと保たれているかを解明するような確実なデータは現在のところ得られていません。

図1 大部分の新世界ザルの視物質遺伝子のパターン

これまでに、マーモセット科の、マーモセット(Callitrichidae Callithrix)、ピグミーマモセット(Callitrichidae Cebuella)、ゲルディモンキー(Callitrichidae Callimico)、ライオンタマリン(Callitrichidae Leontopithecus)、タマリン(Callitrichidae Saguinus)とオマキザル科のリスザル(Cebidae Saimiri)、オマキザル(Cebidae Cebus)、ウーリーモンキー(Cebidae Lagothrix)、クモザル(Cebidae Ateles)、ティティ(Cebidae Callicebus)がこの図と同じような遺伝子型を持っていることが明らかになっています。(文献:Surridge, Osorio and Mundy, Evolution and selection of trichromatic vision in primates. Trends in Ecology and Evolution, 18, 198-205, 2003; Surridge and Mundy, Trans-specific evolution of opsin alleles and the maintenance of trichromatic colour vision in Callitrichine primates., Molecular Ecology, 11, 2157-2169, 2002; Heesy; and Ross, Evolution of activity patterns and chromatic vision in primates* morphometrics, genetics and cladistics., J. Human Evolution, 40, 111-149, 2001)

180(エクソン3)
277(エクソン5)
285(エクソン5)
吸収波長
吸収波長
S->A (-7nm)
Y->F (-8nm)
T->A (-15nm)
予測値
実測値
S
Y
T
560
561
マーモセット型黄
A
Y
T
553
553
A
F
T
545
545
マーモセット型緑
A
Y
A
538
539
A
F
A
530
532

図2 色感受性を決める遺伝子サイト (by Kawamura et al. Gene 269, 45-51, 2001)

X染色体上の視物質遺伝子は6つのエクソンを持ちます。その中でエクソン3にある180番目、エクソン4にある197番目、エクソン5にある277番目と285番目と308番目のアミノ酸残基が光の波長吸収特性(色感受性)を決めていると言われています。ここに何が入るかによって数ナノメートル(数百万分の1ミリメートル)の吸収波長のずれが生じます。新世界ザルの場合は特に180番目がセリン(S)かアラニン(A)か、277番目がチロシン(Y)かフェニルアラニン(F)か、285番目がトレオニン(T)かアラニン(A)かで最大吸収波長が決まります。


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