脳の世界メニュー
近視はなぜ起きる


 目はカメラと似ており、レンズ(水晶体)で光を集めレンズの後ろに像をつくります。像を映し出す場所はカメラではフィルムですが、目では網膜と呼ばれる場所です。鮮明な像をフィルムや網膜に映し出すためにはピント合わせが必要です。カメラの場合はレンズの位置を変えてレンズからフィルムまでの距離を調節してピントを合わせます。目の場合は、レンズから網膜までの距離は変化しない代わりにレンズの厚みを変えてピント合わせを行います。レンズから網膜までの距離は子供の発達の時期に目の大きさが増すにつれて次第に拡大しますが、成長期を終わると原則として変化することはありません。そこでレンズと網膜の距離が短すぎたり長すぎたりするとレンズの厚みを変えても網膜に鮮明な像をつくれなくなります。レンズと網膜の距離が長すぎるのが近視で、レンズと網膜の距離が短すぎるのが遠視です。近視では目の前に凹レンズを置くことによって、遠視では目の前に凸レンズを置くことによって、鮮明な像を網膜上につくることができます。

 1981年に視覚野の仕事でノーベル賞をもらったウィーゼルと彼の研究室のラビオラは、なぜレンズと網膜の距離が正常よりも長くなり近視になるのかを説明する実験を行い、1977年に発表しました。彼らはまず、生まれて2週間のサルの片目のまぶたを縫合しました。この手術の結果、片方の目には皮膚を通して薄明りが入るだけです。18カ月後に眼球を調べた結果、まぶたを縫合した方の目は水晶体から網膜までの距離が異常に延長していました。この距離の延長は動物の目が近視になったことを意味します。彼の実験例では、距離の延長は、正常な場合の20%にも達していました。つぎに彼らは、まぶたを縫合するかわりに、角膜と水晶体の間に濁った液体を注入して同様の実験を繰り返し調べてみました。まぶたを縫合したときと同じように、水晶体と網膜の距離(眼軸)が延長していました。さらに、まぶたを縫合しても真っ暗闇で育てると眼軸の延長が起こらず近視にならないこともわかりました。これら一連の研究の結果、彼らは、サルの目のサイズは網膜に鮮明な像が結ぶようになると停止する。常に不鮮明な像しか網膜に映らない条件では、目の拡大が止まらず近視になったと推論しました。

 ウィーゼルらの実験で引き起こされた近視は水晶体と網膜の距離の延長によるものですが、この距離の延長を伴わない「近視」も多く、そのなかには、いわゆる「仮性」近視(偽近視)があります。近くを見る作業が多く遠方を見ることが少ないと、水晶体の厚みを増す働きを持つ網様体筋の緊張状態が異常に高まります。純粋な偽近視のみのときは夜空の星や遠くの景色など遠方を見たり、アトロピン(売薬名ミドリン)という薬で網様体筋の緊張状態を取り除くことで治療することができます。


図1 左は正常な環境で育ったときの目、右は生後2週齢で眼瞼縫合し、18ヶ月後に調べた結果。眼瞼縫合した目の眼軸は20%延長していた。(WieselとRaviola, Nature, 256, 1977)


このページのトップへ戻る

脳の世界のトップへ戻る


(このページに関する連絡先:三上章允)