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| 私たちの目は、私たちのまわりの世界の物理的性質を精巧なカメラのようにそのまま写しだしているわけではありません。見たものを能率よく判断するために、目から入った情報を分解し、統合し、様々な処理を加えながら見ています。脳は、その独特な効率のよい情報処理装置としての反面、実際の物理的特徴と違ったものが見えることがあります。これが錯視です。例えば、同じ長さの直線の両端に<>記号や><記号をつけると、直線が実際より長く見えたり、短く見えたりします。 |
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| 図1のAを見てください。パックマンのような形の図形が三つあり、そのパックマンの開いた口を三つの角とした内側に白い三角形が見えてくるはずです。これは、イタリアのゲシュタルト心理学者カニツァによって考えられた図形です。あたかも三角形に切り抜いた白い紙が黒い線で描かれた逆三角形と3つの●の上に乗っているように見えます。この白い三角形は、実際には存在しないのに、主観的には「見える」輪郭腺(主観的輪郭線)によって構成されています。このような現象は、脳のどこで起きていますのでしょうか。 |
図1 A:カニツァの三角形、B:横線で描かれた縦の主観的輪郭線 |
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| 1984年、スイスのフォン・デル・ハイトとピータ・ハンスは、大脳皮質の第二次視覚野の神経細胞が、この実際には存在しないが主観的には「見える」輪郭腺(主観的輪郭線)に反応するというデータを発表しました。フォン・デル・ハイトゥらは、第一次視覚野(V1)と第二次視覚野(V2)の細胞に主観的輪郭線を見せてテストしました。その結果、第二次視覚野には、主観的輪郭線に反応し、主観的輪郭線を構成する要素の線分には反応しない細胞のあることが確かめられました。一方、第一次視覚野の神経細胞は、主観的輪郭線を構成する要素に反応し、主観的輪郭線には反応しませんでした。この研究によって、一見非常に高度な図形判断に基づいて引き起こされているようにみえる主観的輪郭線のような錯視現象が、実は、比較的低次の視覚野の細胞の性質によって決められていることが明らかにされました。錯視現象を考える場合、私たちは、比較的高次の図形判断、視覚空間の判断にもとづいていると考えがちです。たとえば、主観的輪郭線は、三角形の断片からまず三角形を構成し、その三角形の三辺を完成させるように、不足部分の線が見えてくると解釈することもできます。フォン・デル・ハイトらのデータは、少なくとも主観的輪郭線については、錯視は、比較的低次の視覚情報処理レベルで引き起こされている可能性を示した点で意義があります。 |
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| 他の錯視、たとえば、実際には同じ長さの線分が違った長さに見える錯視や、まっすぐの線分が曲がってみえる錯視も、第一次視覚野、第二次視覚野といった比較的低次の視覚野の神経細胞の性質で決まっている可能性がありますが、まだ神経細胞レベルでの研究は行われていません。 |
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<参考文献> von der Heydt, R., Peterhans, E. and Baumgartner, G. Illusory contours and cortical neuron responses. Sience 224, 1260-1262, 1984. von der Heydt, R. and Peterhans, E. Mechanism of contour perception in monkey visual cortex. I. Lines of pattern discontinuity. J. Neurosci. 9, 1731-1748, 1989 Peterhans, E. and von der Heydt, R. Mechanism of contour perception in monkey visual cortex. I.I. Contours bridging gaps. J. Neurosci. 9, 1749-1763, 1989. |
(このページに関する連絡先:三上章允)