人工盲点でも見えない情報を補う


 網膜は目の入力層なので網膜が損傷すれば見えなくなるはずである。しかし、損傷部分が小さければ時間が経過すると気にならなくなる。盲点と同じ現象が起きる。盲点は、誰もが生まれながらにして持っているが、網膜の損傷は後天的なものである。しかし、盲点と同じように、損傷周囲の情報が損傷部位に対応する大脳皮質領域に送られ損傷があたかもないかのように欠損部分の感覚を補う。


図1 網膜の一部をレーザーで焼いて破壊する。網膜の損傷部分(赤で表示)から情報を受け取っていた外側膝状体(大脳皮質への中継核)では損傷に対応した領域(ピンクで表示)の活動が停止する。活動を停止した外側膝状体から情報を受け取っていた大脳皮質の対応領域(ピンクで表示)も活動を停止する。外側膝状体では、変化はおきず、網膜の損傷領域に対応した領域は活動を停止したままである。一方、大脳皮質では、しばらくすると活動を停止していた網膜損傷領域に対応するピンクの部分も活動が回復する。この活動は、外側膝状体の活動停止領域(ピンクの部分)の周辺の神経細胞の軸索(神経線維)が枝をだし、大脳皮質の活動停止領域(ピンクの部分)に入り込むことによって引き起こされる。

図2 左の図は網膜の損傷の場合、は盲点、は網膜の損傷部位、大脳皮質の損傷部位には網膜の対応部分からの入力はなくなるが、損傷周囲の網膜から情報を送る神経線維の枝が損傷部位に対応する大脳皮質の領域に入り込み、見えない領域が「見えるような」感覚を引き起こす。(この図では途中の外側膝状体は省略して図示している)

(Darian-Smith, Gilbert, 1995)

図2、右の図は大脳皮質を損傷した場合、損傷した大脳皮質領域に情報を送っていた神経線維に枝が損傷周囲の大脳皮質領域に入り込み知覚が得られるようになる。この場合は網膜は正常なので、損傷した大脳皮質領域に対応する網膜の情報処理が損傷周囲の残された皮質で処理され、見えない部分は消失する。サルの実験ではこの変化は10日で起きた。

(Newsome, Wurtz, Dursteler, Mikami, 1985)

図3 ネコでの実験データ。左が網膜損傷前、破線は網膜損傷領域に対応する視野領域。中央が網膜損傷直後、網膜損傷領域に対応する視野領域に相当する大脳皮質では活動が停止する。右が網膜損傷後3ヶ月、網膜損傷領域に対応する視野領域の周囲の視覚刺激が、活動を引き起こしている。

(Darian-Smith, Gilbert, 1995)



<末梢側の破壊の後の神経経路の一般的な変化>

図4 外の世界に対応して入力や出力に関連した末梢の地図、中枢の地図がある。 図5 末梢側が破壊されると、その領域に対応していた中枢領域が入力を失い空白となる。

図6 空白になった中枢領域の周辺に来ていた神経線維が空白領域に枝(側枝)を伸ばす。
図7 空白領域周辺の地図が変化し、新しい末梢の条件に合った地図に変化する。


<参考文献>

1. Darian-Smith C, Gilbert CD (1995) Topographic reorganization in the striate cortex of the adult cat and monkey is cortically mediated. J. Neurosci. 15, 1631-1647..

2.Newsome WT, Wurtz RH, Dursteler MR, Mikami A (1985) Punctate chemical lesions of striate cortex in the macaque monkey: Effect on visually guided saccades. Exp. Brain Res. 58: 392-399.


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(このページに関する連絡先:三上章允)