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私たちが何かを見て学習するときには、対象を右側の視野で見ようと、左側の視野で見ようと同じように学習できるはずです。例えば、大脳皮質の第一次視覚野が脳のどこにあるかという図を視野の右側で見て学習したときに、左側に視野に問題が出されたら分からないなどということはないはずです。ところが学習課題の設定によっては、これに似たことが起こります。
図1bはある被験者が1日に約1000回繰り返したときの正答率です。縦軸が正答率で、横軸は上の図のテスト刺激のスタートから下のマスク刺激の呈示までの時間間隔(SOA)です。単位はミリ秒(1000分の1秒)です。それぞれの折れ線の右端に小さな数字がありますが、それぞれ、何日目かを意味します。例えば、右端に1の数字のついた折れ線(1日目)は、SOAが140ミリ秒のとき正答率はほぼ100%ですが、120ミリ秒のときは、55%付近です。この課題は、縦か横かの二者択一の課題なのででたらめに答えても50%前後の正答率になるはずです。従って、55%というのは被験者が縦か横か分からないということになります。このような正答率をチャンスレベルと言います。つぎに、右端に2の数字のついた折れ線(2日目)をみると、一日目でチャンスレベルだったSOAが120ミリ秒の条件で95%程度の正答率になっています。100ミリ秒のときはチャンスレベルです。このように毎日この課題を行うと、テスト刺激からマスク刺激が呈示されるまでの時間が短くても正確に答えることができるようになります。言い換えれば学習効果があるわけです。 図1Cは、正答率80%を越える最も短いSOAの値を縦軸に、学習が何日目かを横軸にあらわしています。1日目から5日目にかけて急速に改善し、50ミリ秒でもできるようになっています。 ここまでは学習効果があるというだけの話なのですが、15日間この課題を続けて十分に短い時間のSOAでも高い正答率でできるようになったあと、テスト刺激の3本の斜め線の呈示される位置を変えると学習はやり直しになってしまいます。図2は5人の被験者の学習効果を3本の斜め線の呈示位置とともに示しています。上の2つのグラフは、被験者SAです。まず右上で学習し、2回目は右下、3回目は左上です。呈示範囲が変わるたびに、カーブは上の方(長いSOA)から始まっています。言い換えると視野の他の場所で学習した結果が別の視野領域に反映しないのです。中央の図の左側は被験者HLで1回目が左上、2回目が右上、中央の図の右側は被験者YLで1回目が右、2回目が左、下の図の左側は被験者STで1回目が右下、2回目が右上、下の図の右側は被験者AKで、1回目が左下、2回目が左上です。いずれの場合も呈示範囲が変わると学習はやり直しになっています。
この課題は細い線分の傾きの知覚を必要としていること、視野の領域に依存した学習であることから、連合野のような大脳皮質の高次領域ではなく、視覚入力に近い初期視覚野(第一次視覚野またはその周辺)が関与する学習と考えられます。連合野の細胞は広い受容野を持ちますでの視野の領域に依存した学習を説明できないからです。 サギらはさらに、この学習効果がレム睡眠で起こると報告しています(文献2)。この点については「学習はレム睡眠で進む」で紹介しました。
参考文献: 1. Avi Karni and Dov Sagi, Where practice makes perfect in texture discrimination: Evidence for primary visual cortex plasticity. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 88, 4996-4970, 1991 2. Avi Karni, David Tanne, Barton S Rubenstein, Jean JM Askenasy, Dov Sagi, Dependence on REM?Sleep of OVernight Improvement of a Perceptual Skill, Science, 265, 679-682, 1994
関連項目:
(このページに関する連絡先:三上章允) |