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前頭葉から第4次視覚野へ注意信号が送られる


論文

著者:Armstrong KM, Fitzgerald JK, Moore T

題名:Changes in visual receptive fields with microstimulation of frontal cortex.

雑誌:Neuron. 2006 Jun 1;50(5):791-8.

論文の背景

 見たい物だけ見るで紹介したように後頭葉にある第2次視覚野や4次視覚野の神経細胞は、それぞれの細胞が受け持つ視野の範囲に2つの視覚刺激が存在するとき、注目しない刺激が存在せず、注目した刺激のみが存在するかのような振る舞いをします。このような、後頭葉の視覚野の神経細胞の特徴が、その視覚野の中の回路によって作り出されているのか、それとも他の脳領域からの信号によって作り出されるのかこれまで不明でした。

  この論文は、前頭葉を電気刺激することによって、見たい物だけ見るで紹介したような第4次視覚野の神経細胞の応答が前頭葉からの信号によって作り出されることを証明しようとした論文です。

論文の要旨

 サルは注視課題を行っています。サルがディスプレー上の中央の1点を見つめているとき後頭葉の第4次視覚野の神経細胞の受容野を決めます。つぎに、前頭葉の前頭眼野を電気刺激し、この受容野の位置に急速眼球運動(サッカード)の起こる部位を探します。そうした部位が決まったら、サルが注視課題をしているときに、第4次視覚野の細胞の受容野に視覚刺激を呈示します。この視覚刺激の呈示から 0.5秒経過したとき、0.05秒間弱い電気刺激を前頭眼野に行います。このときの電気刺激は眼球運動を引き起こさないほど十分に弱い刺激です。この電気刺激によって、受容野内に視覚刺激に注意を向けたのと同じ効果が発生し、その神経細胞の活動を増強します。

 図1では、ある1個の神経細胞の受容野の中の異なる2つの場所に視覚刺激を呈示しています。上の条件は 前頭葉の前頭眼野に電気刺激を加えるとき、電気刺激によって引き起こされる眼球運動の到達位置に視覚刺激を呈示しています。このときのテストした神経細胞の応答は、眼球運動を引き起こさない弱い電気刺激を前頭眼野に与えることによって増強しています。一方、図1の下の条件は、前頭眼野の電気刺激によって引き起こされる眼球運動の到達位置から離れた場所に視覚刺激を呈示しています。視覚刺激はテストしている神経細胞の受容野の中に呈示されています。この場合には、上の条件で応答の増強を示した同じ強さの電気刺激が応答増強効果を持ちません。

図1 左上は破線の円が記録中の第4次視覚野の受容野(視野の受け持ち範囲)、黒の縦棒は視覚刺激、赤の線は前頭眼野の電気刺激で引き起こされた急速眼球運動(サッカード)、中央は神経細胞の応答のラスター表示とヒストグラム、黒が電気刺激なし、赤が電気刺激あり、但しこのときの電気刺激は眼球運動を引き起こさない弱い電気刺激、薄い水色のシェードの手前で電気刺激をしています。薄い水色のシェードの時期に赤のヒストグラムが黒の2倍程度に上っています。右の棒グラフは、水色ののシェードの時期の神経細胞活動の平均値を計算したものです。黒が電気刺激なし、赤が電気刺激ありの条件です。

 下の3つの図は視覚刺激がサッカードのターゲットの位置にないときの視覚刺激の位置と応答の大きさを示します。それぞれの図の形式は上の3つの図と同じです。電気刺激しても細胞活動は変化していません。むしろ少し減少しています。

 図2ではさらに、受容野の中に2つの視覚刺激を同時に呈示しています。2つの視覚刺激のうちで、前頭眼野の電気刺激が引き起こす眼球運動の位置にある視覚刺激の応答特性が、前頭眼野の弱い電気刺激で引き起こされます。言い換えると、電気刺激によって一方の視覚刺激のみが単独で呈示されたような応答に変わったのです。どちらの視覚刺激の応答になるかは、眼球運動のターゲットの位置にあるかどうかで決まります。あたかも、前頭眼野の弱い電気刺激が注意を特定の位置に向けさせたように見えます。さらに言えば、見たい物だけ見るで紹介した応答特性は前頭眼野からの信号で作られている可能性が示されたということです。

 

図2 受容野の中に2つの視覚刺激があるとき。2つのうちの1つがこの細胞が好む刺激(P)、もう一つがこの細胞が好まない刺激(N)。黒の横方向の破線PはP単独の時の応答、黒の横方向の破線NはN単独の時の応答のレベルを示す。

Pが電気刺激で眼球運動が起こる位置にあるとき、前頭眼野の弱い電気刺激はNが存在せずP単独のときの応答に近づく。逆にNが電気刺激で眼球運動が起こる位置にあるとき、前頭眼野の弱い電気刺激はPが存在せずN単独のときの応答に近づく。この図は見たい物だけ見るで紹介した応答パターンをそっくりである。

 

セミナーで問題となった点

 後頭葉の第4次視覚野の神経細胞の受容野は比較的小さいので眼球運動のターゲット位置とその外の位置を受容野内にきれいに納めることがどの程度可能なのか、論文では詳細な情報が提供されていませんでした。

 また、電気刺激は前頭葉から第4次視覚野に向かう神経線維を刺激するだけでなく、第4次視覚野から前頭眼野に向かう神経線維を逆方向に刺激する可能性がありますが、この点について検討されていませんでした。

 これらの問題点はあるものの、過去に行われた記録実験のデータときれいに合う結果となっている点は興味深いと評価しました。

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(このページに関する連絡先:三上章允