2つの目、立体視の仕組み


 ヒトは左右2つの目を持っています。2つの目は顔の前の方についていて、水平方向に約180度の視野を持っています。この視野のうち、中央の約3分の2(左右に約60度)は右目と左目の両方を使って見ています。これを両眼視といいます。周囲の約30度は左は左の目だけ右は右の目だけで見ている領域です。

 このように、目は左右両方の視野を見ているのですが、目から脳に視覚情報が送られるとき、左視野の情報は右脳へ、右視野の情報は左脳に送られるような仕組みがあります。目はカメラと同じように外の像を左右逆さま、上下逆さまに網膜(カメラで言えばフィルムに相当)に写し出します。従って、左目の右の網膜には左視野の像が投影されていてその情報は、目から出た後、中心線をまたいで右側の脳に送られます。左目の左の網膜は右視野の像が投影されていて、その情報は中心線を越えることなく左の脳へと送られます。右目についても同じことが起こります。右脳が左の世界、左脳が右の世界と対応する特徴は、他の感覚系や運動系にも共通します。大脳のこのような特徴を対側支配といいます。

図1 視野、眼球、大脳皮質の関係



 獲物を追いかけて捕まえるライオンやトラも左右の目は顔の前方を向いていて両目で見る領域が広くなっています。両眼視することによって精度の高い奥行き知覚が得られ、獲物との正確な距離を測り獲物を捕獲するのに有利に働きます。逆に、捕食されるウマやシカなどは両眼視の領域を殆ど持たず、後方まで視野を広げています。

 両眼視による立体視の原理を図2に示しました。ヒトの右目と左目は6ー6.5センチ離れています。そのため、注視点以外の像は左右の目でわずかにずれて写ります。注視点よりも奥行き方法に遠いところにあるものの像は右目では左に、左目では右にわずかにずれます。注視点より近い場合は逆方向にずれます。このわずかな像のズレを私たちは像のズレとして知覚せず、奥行きとして知覚します。奥行き知覚を引き起こす両眼の像のズレを両眼視差を呼びます。


図2 両眼立体視の仕組み

私たちの目は奥行き方向のある点を注視することができます。そのとき、注視点よりも遠い像は右目では左側に、左目では右側にずれます。この図の中央の眼は左右の眼を融合した概念上の眼です。観察者の真正面にあり奥行き方向のみ異なる2つの点のうち、遠い点は左右の像が注視点の像からずれてしまいます。網膜上でこの様なズレが生じているとき、ヒトは像がブレてみえるのではなく奥行きの違いとして知覚します。この図とは逆に、注視点よりも観察者に近い点は、左目では左側、右目では右側にずれます。

 この他、右目と左目の視覚情報到達の時間的順序も奥行き知覚をつくります。例えば、左側に壁があり、壁の後ろからボールが飛び出すとき、右目で先に見え、つぎに左目にみえます。コンピューターの画面にこの条件を描き、右目、左目の順に像が写るとボールは壁の後ろから飛び出すように見えます。左目、右目の順に変えると、ボールは壁の切れ目で壁の手前に突然出現したように見てます。

 2つの目はこのように、精度の高い立体視覚に有利ですが、片目でも奥行きの判断は可能です。既知のものの大きさ、眼球の向き、目の遠近調節の度合い、模様の変化、対象物と背景の関係、陰影なども手掛かりとなります。動きの知覚は奥行きの判断にも役立っています。観察者が動くとき、遠くのものはゆっくりと近くのものは速く動きます。例えば電車に乗って窓から外の景色を見ていると電車の近くの電柱はびゅんびんと通り過ぎますが、遠くの山並みはゆっくりと動いていきます。これを運動視差と呼びます。片目でも十分な奥行きの判断ができるので、私たちは片目でも車の運転が可能です。


図3 両眼立体視の仕組み2

左側の壁の後ろからボールが飛んでくるとき、右目、左目の順にみえてくる。この時間的ズレが奥行き知覚をつくる。


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(このページに関する連絡先:三上章允)