マガーク効果:視覚優位の実験


 「霊長類は視覚動物」の項目で既に説明したように、サルやヒトでは視覚が良く発達している。ニホンザルと近い関係にあるアカゲザルで調べると、視覚に関連した大脳皮質の領域の総面積は、大脳新皮質全体の約55%にもなる。この面積は、聴覚関連の領域の総面積約3.4%を大きく上まわっている。ニホンザルで学習課題を教えるときも、視覚刺激を手がかりとした学習課題は比較的簡単に教えることができるが、聴覚刺激を手がかりとした学習課題を教えるのはなかなかほねがおれる。これとは逆に、ネズミを訓練するときは、聴覚の方が視覚よりも簡単である。

 わたしたちは他人に何かを伝えるとき「ことば」を用いる。現代の大部分の文化圏では文字を使って話を伝えることも可能ではあるけれども、「ことば」を使うときは音声を使うのが最も手っ取り早く一般的な方法である。「ことば」を用いる人類にとって聴覚もまた重要な感覚である。しかし、耳からの入る情報だけでなく、実は話し手の顔を見ていることも音声の理解には重要な役割を果たしている。耳の不自由な人はくちびるの動きから音声を読む。耳の不自由な人だけではなく、耳の良く聞こえる人もくちびるの動きを手がかりに音声を理解している。耳で聞いた音声と目でみたくちびるの動きが合わないとき、人は目で見たくちびるの動きから音声を判断してしまう。  

 イギリスの心理学者、ハリー・マガークとマクドナルドは、つぎのような実験を行った。まず、スクリーン上の人に「が、が・・・」と発音させる。そのフィルムを上映するときに画像の音声を消し、陰の声で「ば、ば・・・」という音声をスピーカから流す。この実験で被検者は「だ、だ・・・」と聞こえたと報告する。被検者に目を閉じるように指示すると、こんどは「ば、ば・・・」と聞こえたと報告する。この実験結果は、くちびるの動きという目で見た映像にだまされて、耳から入った音声が実際とは違った音声に聞こえたことを示した。「ば」と発音するときにはくちびるが合うはずなのに、スクリーン上に映し出されたくちびるは開いたままである。このために、くちびるを開いましたままで発音された音声へと解釈が変えられたのである。このように、視覚と聴覚が矛盾するとき、視覚に矛盾しないように聴覚の解釈が変えられてしまうことがしばしばある。

 目で見た情報と耳で聞いた情報が矛盾するとき、目で見た情報を優先させてしまうことを利用した手品がある。手品師は二つの小箱を取り出して、その一つの鈴を入れる。手品師は机の上に置かれた二つの小箱を一つづつ取り上げて振って見せる。一つの箱を振ると鈴の音がする。もう一つの箱を振っても鈴の音はしない。手品師は二つの小箱を机の上に戻し、小箱の向かって呪文をかける。つぎに小箱を開けたときには、もうどちらの小箱にも鈴は入っていない。実はこの手品では、鈴ははじめからどちらの小箱にも入っていなかったのである。手品師が一つの小箱を振ったとき舞台の端のカーテンの陰で、手品師の助手が鈴を振っていた。観客は振られた小箱という目で見た情報と、鈴の音の聞こえる方向が矛盾したとき目で見た情報を優先させ、音は小箱から聞こえたと判断したのである。

マガーク効果のデモ・ページ(イルージョン・フォーラム

http://www.brl.ntt.co.jp/IllusionForum/a/mcGurkEffect/ja/index.html へのリンク

このデモで、Aを選択すると、映像を見ていると「だ」や「が」などに聞こえる。目を閉じて聞くと「ば」であることが分かる。「ば」ではいったん両唇が閉じるが、「だ」や「が」では唇が半開きなので、半開きの映像を見ると、唇を閉じない音声に聞こえてしまう。 

YouTubeの映像

http://www.youtube.com/watch?v=ypd5txtGdGw&feature=player_embedded#at=140

<参考文献>

Harry McGurk and John MacDonald, Hearing lips and seeing voices. Nature, 264, 746-748, 1976

イリュージョン・フォーラムには、この他多くの錯視、錯聴のデモがあります。



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(このページに関する連絡先:三上章允)