脳波って何?

生物電気の発見と脳波の記録
 1780年、イタリアのガルヴァーニ(Luigi Aloisio Galvani, 1737-1798)は、銅と鉄の金属がカエルの脊髄に触れると筋肉の収縮が起こるのを観察しました。この発見からヒントを得て、彼は筋肉や神経から電気が発生するという考えを提案しました。それから1世紀近くが過ぎた1875年、イギリスのケイトン(Caton)は、露出したウサギの大脳皮質表面に2本の電極を置き、その間につないだ電流計に電気が流れるのを観察しました。ケイトンはこの電気活動は脳の働きと関係あると考え、実験をイギリス医学会で供覧しました。しかし、他の研究者の興味をほとんど引きませんでした。その後、イヌなどを用いた実験はいくつか行われましたが、ヒトの脳の電気活動を記録するまでにはさらに半世紀かかりました。1924年のことです。始めての脳波の記録を報告したのはドイツの精神科の医師ベルガー(Hans Berger, 1873-1941)でした、その成果は1929年に論文として発表されますが、彼の業績もその発表当時は注目されませんでした。脳波が学会から注目されるようになったのは1934年にイギリスの生理学者でノーベル賞受賞者のエイドリアン(Edgar Douglas Adrian)がベルガーの実験を追試してからのことです。その1年前にエイドリアンはベルガーの脳波記録をBerger Rhythmとして紹介していました。

 このホームページにある「神経は電気を使う」で述べたように、神経は電気を使って情報を伝えます。脳にはたくさんの神経細胞があり、それらの神経細胞が網の目の様なネットワークを作り上げています。脳が働くとき、ネットワークを構成する神経細胞で電気的な活動が起こります。個々の神経細胞に発生する電気的な変化の一つは活動電位です。もう一つは活動電位が神経を伝わって、次の神経細胞に情報を受け渡すときに発生するシナプス電位です。シナプス電位は単独では活動電位を発生するほど大きくないのですが、たくさん集まって活動電位発生の基準値を超えると活動電位を発生します。たくさんの神経細胞で発生する活動電位やシナプス電位の総和を頭の皮膚の上から観察したのが脳波です。脳波には特にシナプス電位が大きく貢献しています。但し、頭の皮膚の表面に置かれた電極から記録される電気的な変化は数十マイクロ・ボルト(マイクロ・ボルトは1ボルトの100万分の1)程度と非常に微弱です。また脳波は、頭皮上から比較的広い範囲の電気的な変化を総合して見ているので、脳のどこに対応するかをそれほど細かくみることができません。

 精神活動や意識の状態に伴って、脳波は規則的に変化します。目を閉じて安静な状態のときは30-60マイクロボルト、8-13ヘルツ(1秒間に8-13回)の波が左右対称に記録されます。これがα(アルファー)波です。目を開けて物を見たり、音に注意を向けたりするとα波は消え、電圧変化の小さなβ(ベータ)波に変わります。β波は14-25ヘルツの周期を持っています。逆にうつらうつらするときには、ゆっくりした周期のθ(シータ)波がでます。θ波も振幅が小さいのですが、周波数はα波よりも低く、4-7ヘルツです。眠りがやや深くなると、14ヘルツ前後の紡錘状の波がでます。眠りがもっと深くなると、大きな振幅のδ(デルタ)波が出ます。周波数は遅く、0.5-3.5ヘルツです。てんかんの場合は、発作に伴って棘波、鋭波など、特殊な波が見られるため現在でも有効な診断基準となります。その他、脳炎、睡眠薬中毒、脳腫瘍などでも特徴的な変化が見られますが、最近は他の検査法があり、それほど使われていません。


誘発脳波記録

 特定の事象、例えば、視覚刺激や聴覚刺激、あるいは特定の精神活動に伴う電気的な変化を頭皮上から検出しようとするとその電気的変化は通常の脳波に比べてもさらに小さくなります。普通の記録方法では通常の脳波の波の中に埋もれて検出することができません。そこで行われる方法が加算平均法です。たとえば、同じ視覚刺激を数十回見せて脳波を記録し、その記録データを視覚刺激呈示の時刻に合わせて加算平均します。こうすることによって、視覚刺激に関係のない波は毎回違っているために平均化されてほぼフラットになります。一方、視覚刺激に関係した波は毎回視覚刺激が呈示される毎に発生しているのでおなじタイミングのところに波がきて加算すると次第に大きくなります。この方法により、感覚や運動に関係した誘発電位や、精神活動にともなう電位変化をとらえることもできます。後者は事象関連電位と呼ばれます。


関連ページ

脳の細胞:神経は電気を使う


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(このページに関する連絡先:三上章允)