ラスター表示って何?

細胞内記録
 
 脳の神経細胞は電気を使って情報を伝えます。ある神経細胞から他の神経細胞に情報を伝えるとき活動電位が発生します。この活動電位が発生しなければ、情報は伝わりません。従って、脳の中で活動電位がどの細胞で、いつ発生するかによって脳の働きが決まります。



図1 活動電位:神経細胞の膜の内側は通常マイナス数十ミリ・ボルトですが、膜の内側の電位がプラス方向にシフトしてその変化が一定のレベルに達すると、まず、細胞外のナトリウム・イオンの細胞内への流入(緑の線)が起こり、その直後に細胞内のカリウム・イオンの細胞外への流出(赤の線)が起こります。この2つの変化が連続して起こることで、細胞内の電位が1ミリ秒以下の短時間プラスになる現象が発生します。これが活動電位(青の線)です。

 図1は「神経は電気を使う」のページにある図と同じです。縦軸が電圧、横軸は時間の流れです。縦軸の単位はミリボルト(1000分の1ボルト)、横軸の単位はミリ秒(1000分の1秒)単位です。神経細胞の中と外との間に電圧の差があって、細胞の中が外に比べてマイナス数十ミリボルトになっています。活動電位が出るときは一瞬、細胞の中が外に比べプラスになります。逆転するわけです。プラスになる時間は1ミリ秒以下です。このとき発生する電圧の変化を直接とらえるためには、細胞の中に先端が数ミクロン(1000分の1ミリ)の極細のピペットを入れて細胞の中と外との電圧の差を記録する必要があります。このような記録方法を細胞内記録と言います。細胞の大きさはせいぜい数十ミクロンですから、ピペットを正確に動かす必要があります。また、相手の細胞が動いてしまうと記録ができません。そこで、脳の一部を取り出してシャーレのような容器の中で記録するか、動物を麻酔して細胞内記録を行うのが一般的です。

細胞外記録

 サルの場合は、認知・学習・記憶・思考・判断・行動選択などの高次の脳機能が良く発達しています。サルで、高次の脳機能機能に関係した細胞活動を解析しようとすると、麻酔したのではその働きを十分調べることができません。ところが無麻酔の状態では動物は動き回り、脳の中の細胞もサルの動きによって微妙に動きます。そのため、細胞内にピペットを入れたまま保持することが非常に難しくなります。そこで、細胞の外から電気活動を記録する方法が使われます。このような記録法を細胞外記録と言います。

 細胞外記録では細胞と電極の距離が多少動いても記録が可能です。その一方で、電圧の変化は普通1ミリボルト以下と、微弱になります。また、電極は細胞内記録のように1個の細胞の中に入っていないので、周りにある複数の活動が同時に記録されてくる特徴があります。そのため、細胞外記録では、複数の細胞の活動波形から、波形の大きさや形の違いを使って個々の細胞の活動に分ける作業がまず必要になります。一般には近くの細胞からの活動電位が大きく記録されます。また、細胞の種類や電極と細胞の位置関係によって形も違ってきます。

図2 細胞外記録の例

左から右へ時間が流れます。この記録では少なくとも、2つの神経細胞の活動が区別できます。1つは大きな電位変化で13あります。もう1つは高さが大きな電位の半分以下で、大きな電位変化の前に1回だけあります。その他にもっと小さな電気活動が見えます。この小さな活動は、遠くにある複数の細胞の活動で、個々の細胞に分けることは困難です。

 個々の細胞の活動に分けた後、その細胞活動が何に関係しているかを調べます。例えば、赤の四角形を見たときの活動と緑の四角形を見たときの活動を比べます。視覚野の細胞でも、何度も色刺激を呈示すると毎回少しずつ違った活動をします。生物は機械と違って、その活動にはバラツキがあるのです。1、2回しかテストしないときは、このバラツキを「反応」と見間違う恐れがあります。そこで複数回繰り返しテストして、観察結果に間違いがないことを確認します。このとき使われるのがラスター表示やヒストグラム表示などの手法です。


図3 

ラスター表示

 活動電位が発生した時刻に点を表示する方法です。図3は1個の同じ細胞から発生したと判定した大きな活動電位の発生時刻に黒い点をつけてあります。一番左の最初の点の前にも活動電位が見えていますが、これは振幅が小さく、波形も異なるので別の細胞と判定されます。このように、活動電位を波形ではなく点で表すことによって、表示スペースを節約できます。


 図4は、頭頂連合野のある1個の神経細胞活動です。同じ視覚刺激を16回表示したときの活動電位をラスター表示したものです。視覚刺激の呈示時刻でそろえ、上から下へ16行で表示しています。このようなラスター表示の図をラスターグラムと呼びます。このように表示することによて、16回分の応答全部を一度に見ることができます。視覚刺激の物理的条件は同じなのに神経細胞の活動電位発生の回数や発生のタイミングにバラツキが見られます。ラスター表示によって、この神経細胞が視覚刺激に応答していることが分かります。視覚刺激提示前、つまり縦線の前に比べ、視覚刺激呈示後は点が増えているからです。ラスター表示はこのように、活動の全体的傾向とバラツキの具合を見ることができます。しかし、定量的な表示ではありません。

ヒストグラム

 図4のラスター表示の下はヒストグラムです。ヒストグラムは単位時間(この図の場合は20ミリ秒)に発生した活動電位の平均の数を縦軸に表示します。視覚刺激提示後80-100ミリ秒でヒストグラムの黒の線が高くなっています。この期間にたくさんの活動電位が発生したのです。ヒストグラムは応答を平均加算しているため、活動のバラツキ具合を見ることはできません。しかし、活動の全体的傾向を一目で確認できます。また、定量的な数値として表示できる特徴を持っています。


図4 頭頂連合野の神経細胞の視覚応答の例

 上のグレーのバーは視覚刺激の呈示期間を示す。
 グレーのバーの下がラスター表示。視覚刺激を呈示したときの神経細胞の活動電位発生をラスター表示している。全部で16行ある。それぞれの行が視覚刺激呈示1回分の活動電位発生に対応。
 ラスター表示の下はヒストグラムです。ヒストグラムは単位時間(この図の場合は20ミリ秒)に発生した活動電位の平均の数を縦軸に表示します。