大脳新皮質の進化


 ヒトの仲間である霊長類は視覚が良く発達した。ニホンザルと近い関係にあるアカゲザルで調べると、視覚に関連した大脳皮質の領域の総面積は、大脳新皮質全体の約55%にもなる。この面積は、聴覚関連の領域の総面積約3.4%を大きく上まわっている。視覚に関連した大脳新皮質の拡大は、外の世界をマップする視覚領野の数の増加と、個々の領野の拡大によって実現していった。

 このような歴史の中で現代のヒトの脳はニホンザルやアカゲザルなどマカカ属の脳に比べて約14倍の大きさを持つほど拡大した。また、体重あたりの脳容量も他の霊長類や哺乳類に比べて高い値を示す。

 一方、進化の過程で比較的近い関係にあるサルの脳はヒトに脳と良く似た形をしている。また、哺乳類、特に霊長類では大脳新皮質が良く発達しており、大脳新皮質の発達が高次の脳機能の実現に寄与したことが分かる。大脳皮質の組織標本で見る特徴も、サルとヒトとで良く似ている。大脳皮質を組織像の特徴から区分した細胞構築学的分類でも類似の組織像を持つ領域が大脳のほぼ同じ位置に存在する。また、それらの大脳皮質領域の機能もサルとヒトとで類似している。

 図1は哺乳類で大脳新皮質の容量と体重を比較したものである。食虫類に比べて霊長類の大脳新皮質がよく発達していることが分かる。一方,系統発生的に古い皮質である海馬の容量はすべての脊椎動物で似通った分布を示す。さらに,嗅覚システムに属する嗅球の体重比率を見ると,食虫類で体重の増加とともに増加するのに対して,下等な霊長類である原猿亜目のサルは食虫類の平均より低く,高等な霊長類である真猿亜目のサルは食虫類よりも著しく小さいだけでなく,体重が増加してもあまり容量が増えていない。

図1 哺乳類のおける大脳新皮質(A)、海馬(B)、嗅球(C)の系統比較。高等なサル(真猿)をピンクで表示してある。真猿の大脳新皮質は下等なサル(原猿)に比較して体重比でより大きい。旧い皮質である海馬は真猿と原猿で殆ど差がない。嗅球は真猿で体重比が最も小さい。縦軸、横軸ともに対数軸。(Stephanら、1969を改変)

 

図2 大脳皮質の視覚野の分布。A.カモノハシ B.ハリモグラ C.リス D.オオコオモリ E.マーモセット F.ヨザル G.アカゲザル H.ヒト

 それぞれ大脳皮質表面の溝を広げ2次元の図にしてある。ヒト、アカゲザル、ヨザルについては面積の相互比較ができるように上の図はスケールをそろえてある。下の図は大脳皮質全体に比べたときの相対比率を示している。アカゲザルとヨザルはV1からV5までの総面積の相対比率は似ているがヒトでは小さくなっている。ヒトの場合、連合野の更なる拡大が初期視覚野の相対比率を下げている。(Krubitzer, 1995、Sereno et al、1995を改変)


関連文献:

1.Stephan H, Andy O J, Quantitative comparisons of brain structures from insectivores to primates. Am. Zoologist, 4, 59-74, 1964.

2.Hofman, M. A., Encephalization in Mammals in Relation to the Size of the Cerebral Cortex. Brain Behav. Evol. 20, 84-06, 1982.

3.Krubitzer L, The organization of neocortex in mammals: are species differences really so different ? TINS 18, 408-417, 1995.

4.Sereno M I, Dalle A M et al. Borders of multiple visual areas in humans revealed by functional mgnetic resonance imaging. Science, 168, 889-893, 1995.

5.大石 正、小野高明編「光環境と生物の進化」、共立出版、2000.

関連項目:

脳の進化

化石人類の脳


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