化石人類の脳

 約6500万年前、恐竜の絶滅とともに哺乳類の時代がやってきた。そのとき、サルの祖先達はまだネズミのような形をした小型の夜行性の動物で樹上生活をしていた。その後、地球の温暖化に伴い広葉樹林の森が広がると樹上生活の場が広がり、霊長類の進化が始まった。ヒトと類人猿の共通の祖先であるプロコンスルも樹上生活の中で生まれた。約1800万年前と推定される。一方、1000万年前から700万年前の激しい地殻変動が起こり、アフリカ大陸の東側に1000-4000メートルの山脈が誕生し、さらにその中央が陥没することによってアフリカ大地溝帯ができた。その後、地球全体に起こった寒冷化と乾燥化の影響もあって、アフリカ東部の森林は消失し、草原となった。森林の残ったアフリカ西部に残ったグループは現在の類人猿に、森林から草原に降り立ったグループが現在の人類の祖先となった。その時期は約700万年前と推定されている。しかし、近年アフリカ西部でも化石人類の骨が見つかっておりこのストーリーは変わる可能性もある。

 人類の祖先は化石でしか見ることができないので、化石人類と呼ばれている。南アフリカや東アフリカで見つかっている400-300万年前に生きていたアウストラロピテクス・アフリカヌスの脳容量の平均値は、441mlであった。これは、チンパンジー(394ml)やオランウータン(411ml)とほぼ同じ容量である。アウストラロピテクスは、直立2足歩行をし、犬歯が小さく、彼らの先祖とは異なっていた。発掘した頭骸の骨のなかに、プラスチックを流し込んで満たすと、脳の模型を作ることができる。彼らの脳は、チンパンジーに比べて、脳の高さが高くなっており、その結果ブローカの運動性言語野に相当する前頭葉の領域も拡大したと考えられる。さらに、後頭葉にある月状溝が後方へ移動している。月状溝は、第一次視覚野と第二次視覚野の境界にほぼ対応している。その後方への移動は、視覚関連の連合野である頭頂連合野と側頭連合野の拡大を意味する。この結果、第一次視覚野は、脳の内側への押され、その点で現代人に一歩近づいている。

図1 上:チンパンジーの頭蓋内の形状、下:アウストラロピテクス・アフリカーヌスの頭蓋内の形状。(Holloway 1974)

 ホモ・ハビリスは、約250万年前にアウストラロピテクスから分岐し、160万年前まで大きな変化もなく南アフリカと東アフリカで生き続けた。ホモ・ハビリスの頭蓋容量は640mlあり、彼らの脳は彼らの祖先に比べてほぼ一様に拡大していた。次の世代の化石は、1890年代にジャワで見つかった。頭蓋容量が約850mlのヒト科の化石で、約70万年前のものと推定された。一方、1920年代に、北京で頭蓋容量、約1040mlのヒト科の化石が見つかり、こちらも80万年前から50万年前のものと推定された。その後、これとほぼ同じものがアフリカのオルドバイでも見つかった。推定年代は、150万年前と、ジャワや北京よりずっと古いものであった。これらの化石は、ホモ・エレクトスと名付けられた。同様の化石は、ヨーロッパでも見つかった。結局、ホモ・エレクトスは、約150万年前、東アフリカに誕生し、アフリカ、ヨーロッパ、アジアへと移動したと推定された。ホモ・エレクトスは、アシュレアンと呼ばれるユニークな石器文化を生みだした。

 次の世代の人類は、1856年、ドイツのネアンデルタールで発見されたので、ホモ・サピエンス・ネアンデルターレンシスの名前で呼ばれている。彼らの脳容量の平均値は、1450mlあり、現代人であるホモ・サピエンス・サピエンスの平均値1350mlよりも大きかった。ホモ・エレクトスからネアンデルターレンシスへの移行は、50万年前から12万年前にかけて起こったと推定されている。

 現代の人類であるホモ・サピエンス・サピエンスの最も古い化石は、パレスチナのクアフゼ洞窟で発見されている。年代は、6万8000年前から7万8000年前と推定されている。ヨーロッパで発見されているサピエンスは、3万4000年前から3万2000年前と新しく、ヨーロッパでは、4万年前から3万5000年前の年代のネアンデルターレンシスが見つかっているので、サピエンスのヨーロッパへの拡大にはゆっくりと進行したと推定されている。

図2 下からアウストラロピテクス・アフリカヌス、アウストラロピテクス・ロブストス、ホモ・ハビリス、ホモ・エレクトス・エレクトス(ジャワ原人)、ホモ・エレクトス・ペキネンシス(北京原人)の脳の容量。()内はサンプル数。現代人の平均値は1350ml。(Tobias, 1975)


関連文献:

1.Holloway, R. L., The casts of fossil hominoid brains, Scientific American, 231, (1), 106-115, 1974.

2.Tobias, P. V., Brain Evolution in the Hominoidea. In Primate Functional Morphology and Evolution. ed by Rassell H. Tuttle, Mouton, Paris, 1975

関連項目:

脳の進化

大脳皮質の進化(準備中)


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